大規模データ基盤構築: ベースレジストリ

大規模データ基盤構築

大規模なデータ基盤を構築するうえで重要な概念となる「ベースレジストリ」について説明します。

ベースレジストリとは同じ意味の情報を配置する場所

ベースレジストリとは、エンタープライズ全体でただ一つだけ存在するデータストアのことです。その意義は、各事業会社・部門・システムごとにバラバラに管理されている「同じ意味を持つ基本情報」を、全社で一貫して利用できる形に整えることにあります。
ベースレジストリに登録される情報の形式はさまざまであり、共通のマスタなどデータベースのテーブルのようなものから、単純なファイルのようなものまで含まれます。また、ベースレジストリを活用することで、データの統制を図ることも可能です。

データアーキテクチャで統一できるものは「社内事務」のみ

ホールディングスを中心とした多事業組織体では、ITアーキテクチャが多様化(Diversification;個別最適化)しているケースがほとんどです。

こうした組織においては、すべての事業をカバーすることを想定した、たった一つの「販売計画」「販売実績」「原価情報」などを作成しようとしてはなりません。なぜこのような発想が成り立たないのか、その理由は次のように整理できます。

  • 顧客が異なるからこそビジネスが分かれているのである
  • ビジネスが異なるからこそデータ構造も異なるのである
  • したがって、統一的な属性を持つ集約テーブルというものはそもそも存在しないのである

一方で、人事、会計、経営管理に関するデータについては、事業をまたいで統一しやすい傾向があります。この傾向は、顧客(サービス)から遠い領域であるほど強くなります。

連結利益を算出する際に用いる「原価」「売価」「利益」は、一見すると全事業共通のデータのように見えます。しかし実際には、あくまで概略化された「原価」「売価」「利益」が存在するにすぎません。せいぜい事業継続の判断や投資判断には利用できるものの、そのデータセットを各事業の詳細な分析にそのまま使えるようなものではない、という点には注意が必要です。

ベースレジストリに登録するエンタープライズマスタ

以下のようなマスタは、エンタープライズにおいて唯一のマスタとしてベースレジストリに配置しやすいものです。

  • 従業員マスタ
  • 組織マスタ
  • 会計科目と補助科目
  • 為替レートマスタ
  • 地域・国マスタ
  • アドレス帳

顧客マスタは特殊な存在

顧客マスタには、顧客をどう捉えるかという考え方そのものが属性として現れるという特徴があります。そのため、多事業体の場合には、顧客マスタを統合することは容易ではありません。

しかしながら、重複した顧客情報や、実質的に同一であるにもかかわらず別物に見えてしまう情報などは、顧客を切り口にした分析を妨げる要因になることも少なくありません。

参考までに、20年以上使用されている顧客マスタから重複顧客をサンプリング調査したところ、10%以上が重複しているという結果が得られました。

このような課題に対しては、顧客の「名寄せ」を目的として顧客基本情報を収集し、名寄せ情報のみをベースレジストリに登録するというアプローチをとります。名寄せの具体的な例については、機会があれば改めて紹介したいと思います。

データはコピーされ、カスタマイズされる点に注意

ベースレジストリのデータは、そのままの形で使われることはまれです。実際には、それぞれのビジネスに合わせて足りない点が補われながら利用されます。

たとえば、国・地域のマスタにおいてトルコが中東として分類されていたとしても、ある事業では販売戦略上の都合から欧州として扱われることがあります。その事業で使用しているマスタでは、間違いなく変更が加えられていると考えるべきです。

ビジネスの都合でオリジナルから変更・追加されやすいマスタとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 商品マスタである
  • 販売地域マスタである
  • 会計補助科目マスタである
  • 顧客マスタである

こうした事業による変化が発生しやすいデータについて、IT部門の想像だけで「単一のものになるはずだ」と想定してしまうと、後になって痛い目を見ることになりますので注意が必要です。

参考文献
• DAMA-DMBOK
* Reference & Master Data Managementの章「golden record」
* リファレンスデータは中央管理、トランザクションデータは分散管理」
• 清田康介, ドメイン駆動設計によるシステム開発 (2020)
Url: https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/chitekishisan_202009/10.html
* DDD(ドメイン駆動設計)の「境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)」
• コンウェイの法則の論文の解説記事
Url : https://blog-smatsuzaki.hatenablog.com/entry/2020/02/09/234931
• DAMA-DMBOK
* リファレンスデータは中央管理、トランザクションデータは分散管理
• エンタープライズ・アーキテクチャの表現方式についての研究
Url: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2011s/0/2011s_0_70/_pdf
* コングロマリット組織は「多様化」が最適

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