中央集積型でデータ基盤を作ろうとした際に、データ管理部門が「都合のいい利用者」を想定してしまうという根本的な問題があります。
中央集積型データ基盤の落とし穴
データ基盤を検討する際、多くの組織が最初に思い浮かべるのは中央集積型のアーキテクチャです。全社のデータを一箇所に集めて統一的に管理する、というアプローチは確かに理想的に見えます。しかし、この考え方の背景には「都合のいい利用者」への期待が潜んでいることが少なくありません。
「号令をかければ従順に従う」という幻想
特に社長の勅命プロジェクトのような場合、「号令をかければ社内は自分たちに従順に従う」と考えがちです。しかし、これは大きな間違いです。事業が異なり、ドメインの独立性が高い組織では、各部門には各々の優先事項と事情があります。データ管理部門の都合は、必ずしも他部門の最優先事項ではないのです。
データ公開の現実
「各システムのデータは公開が義務になったので公開してください」「データレイクに毎日データを自主的に配置してください」といった依頼をしても、実際にはやらない部門のほうが多いのが現実です。なぜなら、各部門には本来の業務があり、データ公開はその業務にとって付加的な作業だからです。
このような状況を踏まえると、管理部門自らが取りに行く仕組みを作らざるを得ません。受動的にデータが集まることを期待するのではなく、能動的にデータを収集する体制を構築する必要があります。
データ変換作業の現実
「システムローカルで使っているコードを、エンタープライズグローバルなコード体系に変換してからデータを公開してください」という要求も、現実的ではありません。各部門にとって、既存のローカルコードをグローバルコードに変換する作業は、直接的な業務価値を生まない負担でしかありません。
このような場合、データ基盤の一部であるデータベースあるいはサーバー上で、中央の管理部門側がコード変換を行うことも覚悟する必要があります。理想的な状態を要求するだけでなく、現実に合わせた運用体制を構築することが重要です。
天動説からの脱却
データ管理部門中心の世界観を捨てる
多くのデータ基盤プロジェクトが失敗する理由の一つに、「世の中の中心がデータ管理部門である」という天動説的な発想があります。すべての部門はデータ管理部門に忠誠を誓っているという勘違いは、プロジェクトを確実に失敗に導きます。
実際には、お金を稼ぐ部門がデータ管理部門に忠誠を誓ったら、本来なすべき商売は崩壊してしまいます。各部門には各々のミッションがあり、それぞれが組織全体の価値創造に貢献しているのです。
コンサルタントの理想論と現実のギャップ
外部のコンサル業者は常に全社で統一された綺麗な状態を前提にして話をします。しかし、実際の企業内部は全く統一されていません。あるいは、統一に向かう途中段階で、各部門の成熟度に大きな差異がある状態で運用を進める必要があります。
都合の悪さは常に存在するものです。この現実を受け入れず、理想的な状態のみを前提とした設計は、必ず破綻します。
利用者の多様性を理解する
「こんな使い方はしないだろう」という思い込み
「こんな使い方はしないだろう」「こんな使い方を許可しなくても十分だろう」といった都合のよい想定は、後に大きな負の遺産を残します。これは利用者の多様性を理解していないことの表れです。
実際の利用者は、設計者が想定したよりもはるかに多様な使い方をします。予期しない使用パターンや要求が次々と現れることを前提として、柔軟性のある設計を心がける必要があります。
現実的なアプローチの必要性
成功するデータ基盤構築のためには、以下の点を考慮することが重要です:
組織の現実を受け入れる: 各部門の事情と優先事項を理解し、それに合わせた仕組みを構築する
段階的な改善: 一度にすべてを理想的な状態にしようとせず、段階的に改善していくアプローチを取る
柔軟な設計: 予期しない使用パターンにも対応できる柔軟性を設計に組み込む
能動的なデータ収集: データが自然に集まることを期待せず、積極的に収集する仕組みを構築する
まとめ
データ基盤構築における最大の敵は、技術的な困難ではなく「都合のいい利用者」を想定してしまうことです。組織の現実を直視し、各部門の事情を理解し、利用者の多様性を受け入れることが、成功への第一歩となります。
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